テレビの音。
外の音。
時折、煙草の煙を吐き出す音。

たん、と軽く煙草が灰皿に押しつけられた音。
彼の座るソファが、軽く軋む音。

目が合った。

「ん」
「?」

ソファに座ったまま両手を広げた兄さんの、声。

「来いよ、幽」

自信満々にそう言われてしまっては、行くしかなかった。
床から立ち上がって二、三歩進んで、そのまま兄さんの元へ倒れ込む。
上手に受け止められた俺は痛くもなんともなくて、抱き心地の良いように直されるのをただ黙って待っていた。

「……兄さん」
「ん?」
「何で分かったの?」

俺がどうして欲しいか、なんて。
常に無表情である俺が言葉を発することなく意思を伝えるのは、正直無理な話だ。
たまに俺自身がどうして欲しいか分からないのに、それでも兄さんは俺に手を伸ばして笑う。

「俺も甘やかしたかったから」

返ってきた答えと一緒に、額に唇が触れる。
口が良いのに、なんて贅沢は間違っても言わない。
これ以上は、罰が当りそうだから。

「……そう」
「そう」

このまま腕の中にいれば、全部溶けて混ざって分からなくなって
あなただけ感じて
現実も何も、見えなくなってしまえばいいのに



『彼方色』



(……中二病思考)
(中二?)
(何でもない)