「今度のドラマは随分とファンタジーだね」
ベッドで俺の台本を暇そうに見ていた彼がそう呟いた。
あまりにも小さな声で言うから独り言かと思ったが、反応すれば返ってくるので首を傾げてみる。
「そうですか?」
「設定がね。お嬢様を守るナイトがこんなにいるんじゃ、クイーンを守る兵士と変わらない」
つまらなそうに見ている割には、その顔に笑みを浮かべて。
反動をつけて起き上った彼は舞台を演じるかのように大きく手を広げた。
その笑みの意味は嘲笑。
正直、見飽きた。
「守って傷つけて傷つけられて、嫌って憎んで愛して愛して愛して!」
物語に存在する感情をそれだけに意味づけて、彼はまたつまらなそうに笑った。
いっそのこと無邪気に笑ってくれれば可愛がってあげられるのに。
思ってはみたが、似合わなすぎて想像するのを止めた。
台本を放り投げてこちらを向く細い身体。
なんとなく独り遊びが得意そうだなと思った。
「幽くんはナイト役?」
「執事です」
「ぴったりじゃないか」
「…そうでもないですよ」
「どうして?」
「俺には彼女を守る理由も傷つける必要も……愛する意味もないですから」
「ふうん、じゃあ、」
いつの間にか俺の目の前まで来ていた彼はやっぱり笑っていた。
お嬢様よりクイーンより綺麗な微笑みは、役に理由や意味を付ける必要の有無を笑っているわけじゃない。
「俺がお姫様なら、楽しんでくれる?」
ゆっくりと近づく唇。
笑みの形は崩れていない。
見目だけなら十分守られる対象なのに。
それが触れる直前、彼は守るということを壊す存在であることを思い出した。
「――でも残念」
「!」
「俺は可愛いお姫様の皮を被った大魔王様でした!王子様である君が、倒すべき存在だよ」
何時の間にか取り出していたナイフが鈍く光っている。
それを何故か俺の手に握らせて、彼はそれを自分に向けた。
「さあ、ハッピーエンドは目の前だ。世の為人の為、そして何より自分の為に!悪の大魔王を今倒すべきだ!」
まるで本当に喜劇を楽しんでいるかのような笑顔だった。
彼は俺の手を支えているだけで、俺がそれを引こうとすれば簡単に首は切れるだろう。
退屈でも嘲笑でもなく、いっそのことにこやかに彼は謳う。
鮮血が散るのを一瞬想像して、彼の目に向き直った。
「…そんなの、」
「できない?無理ならGAMEOVERってことになるけど」
ちなみにCONTINUEはないよ?
こんな愉しそうに悪役を演じきる人は、自分の世界にも錚々いないだろう。
彼は演じているのでなく、なろうとしているのだから。
どう足掻いたって、人間に嫌われる存在。
「臨也さん」
「ん?」
「RECETはないんですか?」
「それは狡いよ、幽くん」
悪意に満ちた綺麗すぎる微笑みを可愛いと思うのは、きっと俺だけ。
『まちがっているのはわたしでありあなたでありせかいですけれども』
大魔王様、どうか貴方の手で葬ってくださいませんか
(喜劇より滑稽なこの感情を どうせならこの世界ごと)